平面図の落とし穴、リビングは四角くスッキリがいい?

住まいづくり『プロと博士の教え』 第7話

住まいづくり『プロと博士の教え』

~『間取りの博士』の教え ~

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リビングは四角くスッキリがいい?

前回までは、「自分たちの新しい生活」をイメージすることについてお話してきましたが、今度こそ「イメージノート」づくりは進んでいますか?

でもって今日は、プランニングを行う上で必ず直面する「平面図の落とし穴」についてお話します。



みなさんは、どんなお部屋のカタチが好きですか?

実際に、間取りを考え出したマムちゃん夫妻は、毎晩のようにあれこれと話し合っているようです。

自分たちのイメージを実際にカタチにすべく、設計士さんも含めて日夜悪戦苦闘しているみたいですが、

マム
「ねぇ、この前持ってきてくれたプランどう思った?」

旦那
「まだイメージわかないんだけど、なんかスッキリしてないよなぁ~」

マム
「プロの方が考えたんだから、ちゃんと意味があるんじゃないの?」

旦那
「そうは言っても、住むのは俺らだぞ!」
「リビングもさぁ~、なんでこうなるのかなぁ~?」

マム
「だってLDKが繋がった方がいいって言ったの、あなたじゃない!」

旦那
「そうじゃなくてさぁ~、なんでこう部屋のカタチがギクシャクしてんのかなぁ?」
「それに狭くねぇ~、このリビング?」

マム
「しょうがないじゃないの、お金がないんだから!」
「これ以上大きくしたら、また高くなっちゃうでしょ!」

旦那
「そうじゃなくて~」

マム
「ならどうしたいのよ!」

旦那
「リビングは、四角くてスッキリした方がいいに決まってるだろ!」


またまたケンカになりそうなお二人ですが、今回は設計士さんが持ってきた具体的なプランを眺めてもめているようですね。

で、旦那の一言!

★「リビングは、四角くてスッキリした方がいいに決まってるだろ!」

…って、マムちゃんの旦那さんと同じように思っている方、どのくらいいるのでしょうか?

広さと言うものは微妙なもので、人それぞれ感じ方が違いますよね。性格でも変わってきますし、今の住環境育った環境でも変わってきます。

そうそう体型でも違ってきます。マツコさんや内山くん・石ちゃんなどと、ナイナイの岡村くんじゃ~当然感じ方も違ってきますよね。

失礼ながら、1畳の普通のトイレに、マツコさんが入ってる姿を想像してみて下さい(笑)

ある一定以上の広さがあれば、例えば東京ドームなどは、多くの方が広いと感じるのでしょうが、一般の家ではそうはいきません。

かかるお金が同じなのであれば、少しでも広くしたい!と思うのは、当然と言えば当然で、誰しも思うことではないでしょうか。

もちろん書斎やトイレなどは、必要以上に大きいと、逆に落ち着かなかったり集中できなかったりということはありますが、リビングに関してはおそらく大抵の方が、「広くしたい!」と思っているのではないでしょうか。

まぁ、わたしくらいの歳になると、年齢とともに「お掃除が大変!」なんて思いが強くなってきたりするのですが…(笑)。

では、もう一度振り返ってみましょう。上記の会話で、マムちゃんの旦那さんは、何が気にいらなかったのでしょうか?

どうやら設計士さんのプランが、リビング8畳とダイニング・キッチン8畳を、少し雁行させていたようです。そのズレが気に入らなかったようですね。

なんでわざわざズラして変な形にしているのか? 単純に16畳のビッグLDKにした~い!って思っちゃったようですね。

マムちゃんは、ちゃんと意味があるんじゃないの? と、珍しく慎重な発言ですね!(笑)



このケース、みなさんはどう思われましたか?

間取りの打ち合わせをしていていつも感じること…、それはみなさんが間取りを、図面そのままに、平面で捉え考えてしまうということなんです。

上から図面を見ることは、家を空から透視して見ることに他なりません。ドラマのスタジオセットではないので、実際にはありえない視点です。

そんな観点から間取りを見てしまうので、ついつい生活レベルでは感じない変な誤解をしてしまうんです。

最近では、VRによる3Dウォークや、自由に回転させて見られる360度ビューのCADソフトも普及し、個人でも手軽に利用できたりしてだいぶ便利になりましたが、それでも平面図の力は大きく、未だに図面の中心は平面図であり、やはり誤解する方が後を絶ちません。

具体的な例としては、平面図のカタチとしての綺麗さ=間取りとしても美しい と思ってしまう点です。特に収納部などの凹凸に敏感な方が多いようです。

実際には収納には扉がついており、見える部屋としては四角形なのに、図面上では収納部まで含めたカタチの印象が強く、なんかしっくりこない場合などです。

典型的な例が、よくある2つ並んだ子供部屋などで、6畳の2つの部屋の間に、互い違いに両側から1畳分の収納を造ったプランなどです。

これをプレゼン時に、部屋ごとに色分けなどしていると、平面図では部屋のカタチはデコボコに見えますが、実際にはスッキリとしたお部屋になっているわけです。

どうですか、段々と平面図の奥深さを感じてきましたか?

お部屋を広く見せる魔法の数々!?

人間の感覚というものは非常に複雑であり、そこには錯覚や思い込みというものが微妙に影響を与え、時に正確な空間把握を妨げることにつながります。

広さの感じ方についても同じことが言え、そのことから逆に広さを演出する方法もいろいろ生まれています。

色彩の効果を利用したもの、対比によるもの、窓の大きさや位置によるもの、錯覚を利用したものなど、いろんな手法を駆使して設計する方は、限られたスペースや予算で、少しでも広く見せようと努力しています。

マムちゃんの設計士さんもマムちゃん夫妻を思い、LDKを広く見せるために、LDK全体としての部屋の対角線を長くすることで、お部屋に広がりを生み出す手法をとっていたのです。

さらには、部屋の角を見えなくすることで、更なる広がりを感じさせる手法も利用していたのです。

一方の対角線が長くなると部屋が広く感じるのは、実際に対角線が長くなっているのでなんとなくわかると思いますが、角が見えないというのは?と、不思議にお思いの方も多いのではないでしょうか。

どういうことかと言いますと、みなさんが今居るお部屋から、隣のお部屋の四隅全部が見えていますか?

みなさんは隣のお部屋の大きさを知っていますが、それでも角が見えないと、その先がずーっと続く広いお部屋かもしれないって思えてきませんか? これが隣室の大きさを知らない人ならば、尚更そう感じるはずです。

「隣の部屋は6畳じゃ!」って怒らないでください(笑)

人間の脳は良くしたもので、角を見えなくすることにより、部屋の大きさを限定せずに感じられるんですね。

同じような例で、写真や映像などのフレームにも同じことが言えます。写真を見て感動して訪れて、がっかりした観光地などありませんか?

写真では写っていなかったビルがすぐ隣に建っていたり、ずーっと続いていく感じの砂浜が、実は写真のところだけですぐに終わっていたり…、フレーム外のことは、その延長線上で勝手に想像し思い込んでいたにすぎず、実際に現地で目の当たりにしてがっかりすることは、しばしばあるはずです。

有名な例で言えば、エジプトのギザの大ピラミッドですよね。360度地平線が見える広大な砂漠の中にあると思いきや、現在では市街地と隣り合わせで、振り向けばビルが林立していますからね。

裏返せば、そこがプロの写真家の凄さであり、同じことが設計士にも言えるんです。

LDKのつながりをわざと雁行させて影をつくり、角を特定させないことからその延長線上で部屋の大きさを勝手に想像させ、空間に広がりをもたせているんです。

この他にも膨張色と収縮色を上手に使った手法や、前室の天井を下げたりしてわざと狭くして、そのギャップにより部屋を広く見せるなど、いろんな手法を採り入れながら、設計士さんはプランニングしているんですよ!

どうですか、おわかりになりましたか?

言われてみればなるほど!と思っても、このことは平面図ではなかなかわかりませんよね。

実際、平面図ではとかく部屋のカタチを、四角くスッキリしたがるお父さんが多いのです。

そんな…って思っているあなた! 実際問題、四角くスッキリした間取りの家と、マムちゃん家みたいな間取りの2つの平面図を見て、どう判断されますか?

四角い部屋の方が、よく見えたりしませんか?

もちろん四角い部屋が悪いわけではありません。家具の置き方や部屋の利用方法、他の空間とのつながりなど、間取りには様々な要素が関係してきますから、一概にどうだとはいえません。

ただ、ひとつの方法としてこういう手法があり、無条件で部屋は四角くてスッキリしたものが良い! というわけではないことを理解してください。

平面図で良く感じるものと、実際にその空間に立って良いと感じるものが異なることをよく理解してください。

もう一度言いますよ!

上から見た平面図は、家を空から透視してみることであり、実際にはありえないことです。ただ平面図を眺めているだけでは、空間を感じることはできませんよ!

次回は、そんな平面図の落とし穴のパート2をお届けします。


『間取りの博士』の教え:第8話
 ☞ なんで壁がズレてんのかな?


※プロローグでお断りさせて頂きましたが、現在では女性蔑視・差別表現とされている「ご主人」「旦那」「奥様」という呼称が登場しています。ジェンダー・ニュートラルな「パートナー」や「つれあい」という言葉では文脈上誰を指すのかわかりにくく、また公的な場で「夫」「妻」を他人が呼ぶ呼称が未だ定着していないことから、便宜上「ご主人」「旦那」「奥様」という呼称を使用しています。


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