謎を生む、本体価格と床面積!
今回が、「坪単価」についてのお話の最終回です。
今回は、前回のお話の延長で、住宅会社の営業マンや設計の方が使うトリックや、決してウソではないんですが、見方がわからなかったり、正確な比較ができなかったりして、見破ることのできない数字のマジックをあげてみます。
「本体価格」の内訳は?
まずは、みなさんが「坪単価」を出すときのもとになる住宅の「価格」について考えてみましょう。
みなさんは、どの金額を床面積で割って「坪単価」を計算していますか?
①「本体価格」ですか?
②「本体価格+付帯費用」ですか?
③「総額」ですか?
さらには、
①「消費税込み」のお値段ですか?
②「税抜き」価格ですか?
実はこの「坪単価」の計算のもとになる「価格」には、決まりなんてないんです。何を含めたものを「価格」として床面積で割りなさい!なんてルールは存在しないんです。
「標準仕様です!」とか、「すべて込みのお値段です!」なんて、よくそういう言葉は聞きますが、そんなものは住宅会社の都合で、いくらでも自由に設定でき調節できちゃうんです。
では、何でそうなっちゃうかといえば、業者による見積りの仕方の違いや、ご契約までの流れ・工程の違い、業者の経費処理の範囲、業者のお客様代行サービスの範囲(融資手続きの代行など)など、多くの要素があげられます。
例えば、仮設水道や電気の費用、地盤調査費用、敷地の測量などの調査費用が、本体価格に含まれている場合と、付帯費用、もしくは別途費用などとして別計上されている場合が挙げられます。
本体価格に含まれている場合は、業者の営業経費の中で無料で調査し金額を出しているか、一般的な事例をもとに推測で金額を概算で約表示で示しているか…、大体どちらかの場合が多いでしょう。
この約表示がくせ者で、お客様の度量?によって、許されちゃう範囲で少なめに表示!なんてことも充分可能になっちゃいます。
同じように、事前に「ご契約後に正式な調査を行いますので、調査によっては多少上下することがございます!」なんて親切な説明をされれば、なんとなく納得しちゃいますが、最初からお客様の顔色をうかがいながら、許されそうな値段を後で上乗せする腹づもりかもしれません。
さらに問題なのが地盤改良や特殊基礎の問題なんです。
地盤が悪くて、土を入れ替えたり(表層改良)、固めたり、杭をうったり(柱状改良)などと、これらは時には100万円単位の金額でズレがでてきちゃうものなんです。
この地盤だけは、正確な調査なしには判断できないものなので、正確な調査をご契約前に行う業者と、ご契約後に行うところでは、計上の仕方も必然的に変わってきちゃうんです。
この地盤に関する改良費用だけでも、「坪単価」に反映するとしたら、坪10万円くらい跳ね上がる場合がいくらでも出てきちゃいます。
「設計料」が無い?無料?
先日ある住宅専門家のメルマガの中に、
「敷地調査費用が無料!とか、無料でプラニングしますのチラシはおかしい! そんなものは当たり前で、すべて設計料に入っているはずだ! ことさら取り立てるのはおかしい!」
とかなり強~い口調で書かれているものがありました。ごもっとも!とは思いつつ、プロの方でも混乱されているのだな~と感じました
昔ながらの工務店や設計事務所では、「設計料」として別計上され、その中にこういった費用が含まれるケースが多いかと思いますが、工業化住宅メーカーなんかの場合には、そもそも「設計料」という項目が無い、もしくは無料!のところが多いんです。
規格住宅の場合、メーカー設計により「設計料」はかからない、正確に言えば開発費として本体価格に織り込み済み…という考え方ができます。
また、営業活動の一環として、経費処理し無料となっている場合もあります。会社の経費の中ですべて行い、契約に至らなくても一切お客様からはお金を頂かないというメーカーです。
上記のメルマガでは、悪人呼ばわりされちゃったりしていましたが、(ちょっと可哀そうでした…)、このようなメーカーさんからすれば、上記のようなチラシは正当であり、逆に「設計料」(通常キャンセル時には、一部もしくは全額をキャンセル料として支払うのが一般的)で、建てもしない工務店にお金をとられてしまうことこそ罪だ!という主張になるんです。
ただし見方を変えれば経費ということは、契約にならない方の分まで、契約した方の価格に、間接的とはいえなんらかの形で上乗せされていることにもなりますから、難しいですよね。
ここまで読まれて、かなり混乱された方も多いでしょうが、何がなんだか、どうなっているのか?…、これが「坪単価」「住宅の価格」の謎そのものなんです。
アレもコレも外だし!?
ではではここで、よく行われている「坪単価」を安く見せる簡単な例を挙げておきましょう。
安く見せる基本は、いかにして「本体価格」を安くして、「床面積」で割らせるかということです。
つまり、本体価格を安くすればいいのですから、何もかも極力外出しにして、付帯工事費用・別途工事費用、諸経費として計上しちゃうわけです。
・仮設電気・水道などの費用を外出しにする。もしくは、付帯工事の屋外給排水などの費用にもぐらせ、本体工事から抜く。
・地盤調査費用や敷地調査費用なども、同様に外出しするかもぐらせて、本体工事から抜く。
・通常、本体に付くべき基準照明(トイレや洗面所の照明など)を、お部屋などの照明費用(一般的には契約後の打合せでモノを決めるので、別途費用として予算計上しているところが多い)へもぐらせ、本体工事から抜く。
・消費税をプラスする前で仕切り、それを「本体価格」として「坪単価」計算をして表示する。
などなど、挙げたらキリがないくらいいろんなやり方があります。
ポイントは、屋外給排水工事費用などは外部要因なものですから、知らずとお客様のチェックが甘くなっちゃうということなんです。
「お客様の建築場所は道路から離れていまして…」とか、「管が道路の反対側に埋まってまして、取り出しに…」とか、「敷地にそこそこ高低差がありまして…」とか、専門業者よりいろんな説明を受けると、かかるものは仕方ないと思えてきてしまうのです。
「本体価格」は比較できても、お客様の土地は特殊でして…と、世界中に一つしかなく一般的に比較できない「土地」のお話としてもっともらしい説明をすることにより、お客様を納得させちゃうんです。
また、照明やカーテンといったものは、お客様自身のやりよう・価値観で決まるものですよね。通常オプションの場合が多いですが、全室照明付きなんて広告でも、付いているというだけで、おそらくそのままの照明器具で納得いくようなレベルのものは少なく、追加になるのがほとんどだと思います。
そうなると、お客様自身の好みの問題であり、自分で決めたことなので、チェックが甘くなっちゃうんです。
ここら辺が、業者側からするとつけ入るスキになり、利益率を取り返す(儲けを増やす)ポイントとなっているんです。
「床面積」ってどこまで入るの?
では、「坪単価」の計算において、もう一つの大きな要因である割る方の数字である「床面積」についても考えてみましょうか。
「床面積」の算出方法には、ちゃんとしたルールがあり決められていますが、プレゼン上では実質床面積とか有効床面積などと言って、実際よりも大きい数字で割ることにより「坪単価」を安く見せるケースがあったりするんです。
どのような場合かというと、一階に「ビルトインカーポート」がある場合や、床面積不算入の「小屋裏収納」や腰高までの「特殊収納」がある場合なんかがそれにあたります。
みなさんピン!ときましたか?
そうです、生活上、有効なこれらの面積をプラスしちゃって、「坪単価」を安くしちゃうんです。
「それって違法では?」
とお思いの方がいるでしょうが、前述のとおり、「坪単価」の計算にルールなんてないんです。
正式な図面上の「床面積」を書き換えるわけじゃないですし、ウソの表記にはなりません。
あくまでもお客様への説明時に、「ここも実際には有効な収納スペースとして活用できますから、実質的な坪単価としましては、坪29万円に…」なんて言って説明したりするんです。
まさに営業トークですよね!
実際に、仕上げもきれいにされ、有効に活用できる収納スペースだったりするわけで、妙に納得しちゃったりするんです。
またプレゼンでは、収納スペースだけを色塗りして強調した図面などを見せられたりしながら説明を受けたりして、厄介なことに坪29万円の数字が頭に残ったりしてしまうわけで、正確な判断を鈍らせちゃうんです。
後で、「あのメーカーは坪29万円だったよなぁ~」などと、間違えてインプットされてしまったりするわけです。
どうでしょうか? 全く良い話を聞かない「坪単価主義」は、そろそろ返上して頂けそうですか?
それとも読んでいて、ますます分からなくなっちゃった!…という感じですか?
わたしの説明が悪いのが半分だとしても、それだけ「坪単価」というものが分かりにくく、いい加減で厄介なものだということは、お分かり頂けましたよね。
それでも、まだ「坪単価命!」という方に、最後にもう一つ!
外観上は全く同じ、水回り設備が1階にある同じメーカーの同じシリーズの同じつくりの家で、延べ床面積が60坪の総3階建住宅と、総3階建てに見える3階まで吹抜けの20坪の平屋のおうち。
「坪単価」を比較して、何がわかりますか?
内装材の量の違いはあれど、構造も材料も設備も仕様も同じなんですよ。この場合の「坪単価」に、何の意味があるのでしょうか?
20坪の平屋の坪単価は、おそらく豪邸並みですよ!
坪単価よ!さようなら
坪単価について3回にわたってお話しましたが、どうだったですか?
家も違えばプランも違い、業者ごとに仕組みもやり方もくくり方も違い、経費処理の範囲も、住まいづくりのお手伝いの範囲も違います。
それを「坪いくら?」というモノサシで計ることは、全くのナンセンスだと思いませんでしたか?
例え同じ項目だけを正確に抽出して比較したとしても、家づくりにおいては、同じ材質や同じ仕様になることはまずありえません。
構造工法から、デザイン、仕上げと、1社として同じところは無いからです。
もし同じになるとしたら、その業者のウリは何なんでしょうか? なんでもうまく競合相手に合わせてくることでしょうか?
そんなポリシーの無い住宅会社から、あなたは家を購入したいですか? そんな業者に本当に任せていいのでしょうか?
…なんて、ちょと熱くなっちゃいましたが、個々を尊重し、モノの価値というものを見極め、コストパフォーマンスを最大限にするような家づくりを、みなさんは考えてくださいね。
決して「坪単価」なんかに振り回されないで!
『間取りの博士』の教え:第4話
☞ これがわたしの夢なの?
※プロローグでお断りさせて頂きましたが、現在では女性蔑視・差別表現とされている「ご主人」「旦那」「奥様」という呼称が登場しています。ジェンダー・ニュートラルな「パートナー」や「つれあい」という言葉では文脈上誰を指すのかわかりにくく、また公的な場で「夫」「妻」を他人が呼ぶ呼称が未だ定着していないことから、便宜上「ご主人」「旦那」「奥様」という呼称を使用しています。