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片山津温泉

片山津温泉に宿泊するならこの宿！

矢田屋 松濤園

矢田屋 松濤園

片山津温泉の中心街に位置し、柴山潟を借景として建つ、創業明治29年の老舗の日本旅館、それが「矢田屋松濤園」だ。柴山潟の水面をボーっと眺めながら、ゆっくりとくつろげるミネラルたっぷりの湯や、日本旅館ならではの部屋の造りなどの話をしたいところだが、そんな話はこの宿には必要ない。

この「矢田屋 松濤園」は2006年のリニューアルとともに、老舗の伝統を残しつつも、新しい趣向を採り入れた宿へと大変身を遂げた。それが顕著に表れているのが「本膳くずし料理」と「立場料理」だ。

かつて北國街道にあった立場にそのルーツを持つこの立場料理は、土産土法の料理の手法を採り入れ、演出を変え現代風に再現したものだが、これがこの宿自慢の新メニューとなっている。

四季折々にその時期に地元で食されている旬の素材を、地元の調理方法でその場でリアルに調理し提供しようというのが狙いだが、一見当り前のように思えることだが、ことハイクラスな宿へ行くほど素材こそ地のものを使ったりもするが、事前に出されるメニューは決められているもので、宿を選ぶ側からも、それが安心感や期待感の高まりにつながっていたりするわけだ。

このコースの始まりは、会席前に一汁三菜の一膳がまず登場する。なんでも室町時代より始まったとされる、日本古来の「本膳くずし料理」なのだという。ご飯から始まるという、通常とは異なるとても珍しいスタイルであるが、慣れ親しんだ食生活であり個人的には自然に思えた。

コースの間に、いよいよ立場が始まる。地元の旬の素材を片手に、今日の素材を選ぶべく見せに来てくれる。調理方法や素材のひとつひとつの特徴などの説明もあり、選んだ素材がどんな料理で登場するのか、少なからずワクワクする。

素材を目で見て確認して調理してもらうということは、ある意味食の安全が叫ばれる中、皮肉にも時代にあったカタチなのかもしれないが、とても趣向が凝らされたもので面白い。また宿を訪れるまで、どんな食材が用意されているのか、どんな料理が登場するのかわからないという、普通なら不安な要素が魅力になっているわけで、宿を訪れる楽しみも増す。まるで行き先不明のミステリー列車「999号」に乗るかのようなワクワク感がある。実に面白いではないか。

冷凍技術や物流網が発達し、旬な季節や地ものが分からなくなってきている現代に一石を投じたかのようなこの宿の試みは、年から年中、エビ・カニ・アワビをもとめ旅をしている者に、本来の「旅」の楽しみとは何かを問いかけているようでもある。ハイクラスな宿＝高級素材でなくてもいいのである。地元の旬な素材を活かした素朴なコース料理でも、充分過ぎるほど楽しめるのである。

見た目も鮮やかで美味しいが、なんとなく宿で出される会席料理に飽きてきた人、立場料理とはなんぞや？と疑問に思われている方に、真っ先にこの宿をおすすめする。まずは泊まって頂きたい。

ただ残念なのは、やはり現代人のニーズに負けてか、あらゆる人に対応すべくサービス面からか、この「矢田屋 松濤園」が「本膳くずし料理」と「立場料理」だけで勝負していない点だ。宿泊者が料理を選択すればよい話ではあるが、「矢田屋松濤園」にはこの料理一本で勝負してほしかった…。

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